開発に取りかかると思ったのはいいが、実際、小さな町のパン屋さんができること知れています。それでも昼間は秋元パンとして営業を続けながら、夜になると工場長とトライ&エラーの日々を重ねました。
まず、焼いたパンをビニールに入れ真空パックを試しました。しかし、一旦空気を抜いてペチャンコになったパンは、開封してもふっくらと元には戻りませんでした。次に保存食ということで、ふとしたことから思いついたのが缶詰です。さっそく焼いたパンを缶詰にしてみました。これを1週間後に開けてみたら、今度は無残にもすっかりカビに覆われたパンが現れました。缶詰の知識もないままでは仕方がありません。本来容器である缶も中の食品も殺菌しなければ安全に保存することはできません。
一般的にはレトルト殺菌という加熱による殺菌で、缶に何十分という加熱する方法があります。しかし、これは試す前にだめだろうと結論はでていました。なぜならパンは焼いてつくられた後、もう一度熱を加え、これが冷めてしまうと、およそパンとしての美味しさを失い価値がなくなります。やはり「おいしいパン」、「保存のきくおいしいパン」。この条件は絶対です。
すると次に、パンの焼きと缶の殺菌が同時にできるようにと、パン生地を直接缶に詰め、そのまま熱を加え焼き上げたら、うまくいくのではないかとひらめきました。アイデアは悪くなかったが、今度はパンが缶にくっついたのです。それではと次に紙を缶との間に入れたが、今度は冷めて熱が奪われるときに水分がでて、パンがふやけてよくなかった。ならばと次に水分をよく吸う紙として和紙に行き当たる。これは友人から障子紙が日本家屋の湿度調整に欠かせなかった話をきいたことがヒントになりました。さっそく試してみると水は確かに吸いますが、残念なことに和紙自体は濡れると弱いことが分かりこれもだめでした。それでもあきらめ切れずに、和紙の種類を和紙メーカにあたっては無理だと言われる日々。この時期、頭の中は合言葉のように常に「和紙のような性質で濡れても熱にも強い紙」でいっぱいになりました。
しかし、その執念がついに報われる時はやってきました。ここでは詳しくは説明できませんが、洋紙であの条件をクリアできる紙を見つけることができ、課題解決へ大きく前進した瞬間でした。